今回は、中華人民共和国からジェノサイドを受けているウイグル人達の証言を漫画で紹介されている作品『命がけの証言』と、本書に込められたウイグル人から日本人へのメッセージについて紹介します。
「新疆ウイグル自治区」の強制収容所
いま中華人民共和国から「新疆ウイグル自治区」と称されている場所には180ヶ所を超える収容所があり、100万人以上のウイグル族を中心とするイスラム教徒達が収容されていると言われています。
中華人民共和国政府はその収容所を「職業技能教育培訓中心(職業訓練センター)」などと称していますが、その実態は、なんの罪も犯していない一般人を拘束、収容して、労働に従事させている強制収容所です。
新疆公安ファイル
2022年5月24日にハッキングによりウイグル現地公安局のパソコンから流出したとされる「新疆公安ファイル」が、世界の14のメディア(日本では毎日新聞・NHK)によって発表されました。
その流出資料には、当局側が収容施設内で撮影したとみられる写真もあり、
頭に黒い布を被せられ、手足に鎖をつながれた収容者とみられる人物を複数の警官に取り囲み、その周囲にはさらに棍棒を持った警官を配置させている・・・・、それを見れば、そこがまともな職業訓練施設ではないことは明らかです。
ウイグル人達の証言内容
その収容所から命からがら逃れられ、亡命することができた方は、収容所内の状況、自分が受けた虐待や、そこで起こった出来事などについて語っておられます。
その証言は日本ウイグル協会でも知ることが出来ますので、是非訪れてみて下さい。
証言によれば、収容所では中国共産党に忠誠を誓わせるための洗脳教育、屈辱的な体罰、凄惨な拷問、性的暴行が組織的に行われているとのこと。
鎖でつながれた手足は何かを書くとき以外は外されず、狭い牢屋に20~40人も押し込められ、同時に寝る場所は無いので交代で横になる、必ず右を下にして寝なければならず、寝返りを打つと罰せられる・・・・などなど異常な環境で過ごさせられています。
彼らの民族性や宗教は否定させられ、どんなに罵声を浴びせられても、辱められても、殴られても、拒否することはおろか、感情を出すことすら許されない、”人権侵害”という言葉だけで表現するには易しすぎる、想像を絶するほどの虐待が行われているのです。
命がけの証言とは
「21世紀の今に?」「まさか、作り話では?」と耳を疑う内容なので、荒唐無稽な作りばなしに思われるかも知れませんが、かれらの証言は新疆公安ファイルの内容と一致していることから、世界ではようやく証言が揺るぎのない事実であると受け止められるようになりました。
彼らはたとえ亡命の地にあっても、現地の中華人民共和国の当局関係者から行動を監視され、脅迫され、常に身の危険に曝されています。
そして証言することにより、ウイグルにいる彼等の家族は人質として、より危険な立場にたたされることになりますが、それでも彼らは同胞を救うため、「今まさに起こっている、真実である」ことを訴えるために、顔と実名を出して、まさに”命がけの証言”活動をされています。
著書『命がけの証言』が出版された経緯
『命がけの証言』の著者・清水ともみ氏は、「ウイグル人に知人もいませんでした。主婦業の傍ら、別名でイラスト、アニメ動画製作の仕事をしていました」、「生来、ウイグルとは何の関わりもない普通の日本人です。(以降、緑太字は「序章」や「あとがき」からの引用文です)」と語っておられるように、特にウイグル人権団体を支援する活動をされてたわけではなく、またマスコミ関係のお仕事でもありません。
著者プロフィール:清水ともみ(しみず・ともみ)
静岡県出身。1997年、講談社『Kiss』にてデビューし、作家活動を始める。子育てに専念した後、イラスト動画作成に携わる。2019年4月にウイグル弾圧の実態を書いた『その國の名を誰も言わない』、同年8月に『私の身に起きたこと~とあるウイグル人女性の証言~』をTwitterにて発表。大きな反響を得て、海外を中心に多くのメディアが紹介。米国務省の広報HPなどに掲載される。
『命がけの証言』より
著者、清水ともみ氏について
彼女がウイグルに関心を持つようになった切っ掛けは、2007に放送されていた、あるテレビの旅番組を見たときに写っていた、ウイグルの綿畑で暗い表情で綿を摘む農婦が忘れられなかったそうです。
その後、ネットに載っていた『東トルキスタンからの手紙』を読んだり、ウイグル関連の情報をインターネットのニュース番組などで得たりするうちに、徐々にそのウイグル農婦が暗い表情だった理由が分かってきたそうです。
新疆公安ファイルについては上記で紹介しましたが、それまで「ウイグル弾圧」の事実は、テレビや新聞などのマスメディアでタブーとされているため、まったく報道されていませんでした(今も尚ですが・・・・)。
そのため、これほど恐ろしい出来事が、日本ではほとんど知られていない事に気付かれた清水ともみ氏は、彼女の漫画家としてのキャリアを活かし、これらウイグル人の証言を漫画にして、SNSに載せれば一人でも多くの人に知ってもらえるのではないかと思いつかれます。
「一人でも多くの人につたえたい」有志の行動
「この方々の収容所での凄まじい体験、命がけの証言を一人でも多くの人に伝えたい」という念いを抱き、2019年に証言漫画『その國の名を誰も言わない』と『私の身に起きたこと~とあるウイグル人女性の証言~』を描いて、Twitter(清水ともみ(@swim_shu)さん / Twitter)で発表されました(この2作は『命がけの証言』に収録されています)。
しかし、それはテレビや新聞で報道されない事なので、ウイグル人達の証言を信じてもらえないどころか、「作りばなしを広めている」などと非難されるのではないか、そのために彼女自身だけでなく、家族に迷惑をかけるのではないかと不安だったでしょう。
なによりも本来、職務として報道しなければならない(個人より何百倍も、何千倍も強大な組織の)マスメディアが避けている事を、清水ともみ氏一個人が大きなリスクを負って発表されました。
非常に勇気が要ったと思います。
発表後のおおきな反響
発表された作品に対する反応は彼女の想像以上に大きく、多くのネットユーザーの目を引きつけ、ウイグル問題を知らなかった方にも注目され、認知度を高めました。
漫画ならではの読み易さが、政治に興味のない人にも理解を深める事が出来るので、多くの共感者を得られたのでしょう。
さらに作品を見た多くの有志の方が拡散したり、十数カ国の言葉に訳し国境を越えて世界に発信されたので、それはジェノサイトの実態を広められたくない中華人民共和国へ「ニッポン・マンガ砲」と呼べるほどのを打撃を与えたのではないかと思います。
そして、その様なSNSでの反響の大きさが、出版社の目にとまり、本書の出版へと繋がることとなりました。
当時、私もウイグル人やチベット人が遭っている凄惨なジェノサイトに心を痛め、この実態を一人でもおおくの方に広めたいと考えていましたが、日々の仕事に追われ、なにもできない自分をもどかしく思っていました。
そんなときに清水ともみ氏の作品を目にしたとき、たいへん勇気づけられたことを覚えています。
『命がけの証言』を伝える本
『命がけの証言』には、収容所から逃れられ、亡命することができた方の証言、ウイグル家族が人質として収容されている在日ウイグル人の証言、そして、ある収容所で亡くなったウイグル人女性(当時34歳)の(彼女をよく知る方の取材による)はなしなど、七本の漫画作品が収録されています。
漫画は極力、証言を忠実に伝えるように描かれたとのことですが、もし彼等の証言を詳細かつ写実的に表現すれば、あまりにも暴力的で、まさにこの世の地獄絵図が目に焼き付き、おどろおどろしい恐怖漫画となったでしょうが、本書ではその様な凄惨な場面や過激な表現は抑えらております。
清水ともみ氏のやさしいタッチの絵は、恐怖感を植え付けたり、恨みや敵愾心を煽ったり、感情的になるのではなく、それは本書の「あとがき」でも語られているように「今も中国国内で声を上げることすらできず消えていく人たちの声」を「一人でも多くの人に伝えたい」、そして一刻もはやい解決のために、漫画を読んで頂いた方々に考えて頂きたい、という念いが伝わってくる作品です。
楊海英氏との対談
そして本書の「序章」には、著者の清水ともみ氏と楊海英氏との対談文も収録されております。
南モンゴル出身者で、日本に帰化された楊海英氏のおはなしは、中国共産党の凄惨な民族弾圧の実態を知ることができますし、そして”チャイナ”を理解するための参考になるので必読です。
著者プロフィール:楊海英(よう・かいえい)
1964年、南モンゴルのオルドス高原で生まれ。1987年北京第二外国語学院大学日本語学校卒業。1989年に日本に留学。別府大学、国立民族学博物館、総合研究大学院大学で文化人類学の研究を続けた。2000年に日本に帰化。日本名は大野あさひ。著書に『墓標なき草原 内モンゴルにおける文化大革命。大虐殺の記録』(岩波書店・司馬遼太郎賞受賞)、『チベットに舞うに本当 モンゴル騎兵の現代史』(文藝春秋・樫山純三賞受賞&航空券・日本研究賞を受賞)など多数。
『命がけの証言』より
なぜジェノサイトをしているのか?
例えば、なぜ中華人民共和国はこのようなジェノサイドをしているのか?私たち日本人にはとうてい理解できませんが、楊海英氏は漢民族の性質を下記の様に非常に明解にはなされています。
清水 中国共産党の民族浄化の意図は何ですか?
楊 同化ですね。漢民族は他の民族に対しての不信感がとても強い。同化して同じ民族にしてしまえということです。今に始まったことではありません。 ~
清水 そうやって、どんどん他人の土地を侵食していくのが中国の伝統・お家芸。そのやり方があまりにも世に知られていない。教わりませんし。隠されているとさえ思います。
わたしは6~7年ほど前に、上海博物館で見た展示物を思いだしました。
そこでは、「中華人民共和国には56の民族が”共存している”多民族国家である」という彼らの主張を誇示すため、民族衣装を着たマネキンや、各民族の文化物などが展示物されています。
本当はシナ大陸には、もっとたくさんの民族がいたのですが、彼らの「伝統・お家芸」を用いて、自分たちの勢力下に置き、56に”まとめ”て取り込んでいきました、展示されているのは”同化政策”成功の証です。
日本人もはやく気付かなければ、いずれここに(57の民族となって)”日本民族”などと和服姿のマネキンでも並んでいるのでは・・・・と思ったのは杞憂(無用な心配)でしょうか。
日本でも進行している”目に見えない侵略”
その同化政策がすでに日本でも進行していることを、両氏が指摘されている箇所を抜き出します。
楊 ~ 実は、中国人はウイグル人やモンゴル人をとても怖がっています。だから必ず複数人で固まって行動する。彼らには「共存」という発想がなく、必ず自分たちが数で上回ろうとする。移住した先々で中国人のコミュニティーを形成し、共存することなく自分たちの一族を増やして数で圧倒してしまう。
清水 恐れているからこその行動なのですね。日本の地方の過疎地では中国人の帰化がとても増えているようです。それもウイグルや内モンゴルでやっている侵略と同じですよね。いずれ過疎地で中国人の数が日本人を逆転してしまうのでは。
楊 十分あり得ます。以前、私が司会を担当した「世界婦人会議」が静岡県で開催されたとき、長野県や新潟県から多くの女性が来ましたが、彼女たちの日本語を聞くと中国語なまりが入っていた。地方には、中国人が多く入り込んでいることがわかります。
清水 日本に住む中国人を増やすことで、“目に見えない侵略”を行っている。大学でも毎年数え切れない留学生が徒党を組み、リーダーは間違いなく中国大使館とつながりがある。
”目に見えない侵略”について細かく言及すると長くなるので割愛させて頂きます。
が、もし「最近、周囲に中華人民共和国出身の方が増えたな」と感じられたときがあれば、それは偶然や、思い違いとして片付けるのではなく、両氏のこの対談を思い出してみてください。
今回は、ここまでに留めておきます。
本ブログ『中禍の実態』でも関連の話題を取り上げていくので、足を運んで頂ければ幸いです。
ウイグル人からのメッセージ
本書を読んでいるとウイグル人達のことばの中には、自分たちが受けているジェノサイドについての証言だけでなく、私たち日本人に向けたメッセージが込められていることに気付かされます。
「それらは全部嘘で侵略のための罠でした」
深く心に伝わってくる言葉が、グリスタン・エズスさんの証言を紹介している漫画のコマの中にあるので最後に紹介します。
私は日本に住んで15年が経ちました
今の日本は昔のウイグルと似ています
日本人は皆 とても優しい
私たちも
《ここは君らウイグル人の土地だからあなた方に任せる
私たちは協力するだけだ 経済的に豊かになったらすぐ出て行く》
(筆者注:《 》内は中華人民共和国の人がウイグル人に向けて語っている言葉です)とても友好的できれいなことをたくさん言われ役人は信じましたが
結果それらは全部嘘で侵略のための罠でした
『命がけの証言』P71~72
そして、グリスタン・エズスさんからのメッセージです。
お願いします
ウイグル人の身に起きていることを知って下さい
そしてそれを基に皆様の国や未来を守るためにも
行動していただけることを願っています
『命がけの証言』P81
「”とても優しい”(つまりお人好しの)日本人、あなた方も決して例外ではない」、「”同化政策”はすでに進行している」、そして「かつてウイグル人が犯した過ちを、あなた方も犯さないように、はやく気付いて行動して欲しい」という、ウイグル人達の訴えが聞こえてくるようです。
まとめと次回予告
「行動していただけることを願っています。」グリスタン・エズスさんが訴えられている”行動”とはどんなことでしょうか?
それは、まず”チャイナ”を良く知ることだと思います。
楊海英氏からすれば、私たち日本人はあまりにも”チャイナ”を知らないうえ、”日中友好”の幻想に浮かれ、中華人民共和国のプロパガンダ工作にまんまと引っかかっているそうです。
以上、今回は『命がけの証言』に込められたウイグル人達の命がけのメッセージが一人でも多くの方に伝えることができればと思い本書を紹介させ頂きました。
そして、清水ともみ氏の勇気の”行動”が、本書を読んだ方の新たな”行動”に繋がって、一刻もはやくジェノサイトを終わらすことができるよう願っています。
次回予告:
本文を読んでいて、なぜこれほど凄惨なジェノサイド問題が日本でほとんど知られていないのか?と不思議に思われたのではないでしょうか。
次回もう一度、清水ともみ氏の著書をもとにその理由を考えてえてみたいと思います。
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