ゼレンスキーの租税回避工作が明かされたOCCRP調査報告書

ウクライナで何が起こっているのか?

 2021年に公開された「パンドラ文書(Pandora Papers)」に、ウクライナの現職大統領・ヴォロディミル・ゼレンスキー(Ukraine President Volodymyr Zelenskyy)の名前があります。
 彼が一介のコメディアンからウクライナの大統領にのし上がった人物であることなどはメディア報道などでよく知られていますが、この世界中の政治家や富裕層の租税回避行為に関するリーク文書に彼の名前が挙がっている事実は話題にされません。

 今回は、このパンドラ文書の資料を基にOCCRP(Organized Crime and Corruption Reporting Project – 組織犯罪・汚職報道ブロジェクト)がゼレンスキーの租税回避行為について調査した報告書『Pandora Papers Reveal Offshore Holdings of Ukrainian President and his Inner Circle | OCCRP / 和訳タイトル:パンドラ文書が明らかにしたウクライナ大統領と側近達のオフショア持株会社』を全文和訳しました。
 そこからゼレンスキーの知られざる一面や、ウクライナの国情などを読み取ってみたいと思います。

モモ&ココ
モモ&ココ

OCCRPは、パナマ文書やパンドラ文書などの機密文書をもとに調査を行い、組織犯罪や汚職を暴くことで民主主義の社会を守ることを目的としている世界最大級の調査報道組織です。

 以下翻訳文。

 

《パンドラ文書が明らかにしたウクライナ大統領と側近達のオフショア持株会社》

パンドラ文書が明らかにしたウクライナ大統領と側近達のオフショア持株会社

ウクライナ大統領ヴォロディミル・ゼレンスキー(訳者註:第6代、在任期間:2019年5月20日~)は、東欧国の汚職撲滅を公約に権力の座に就いた、しかしパンドラ文書は、彼とその側近がいくつかのロンドンの高額物件の所有を含むオフショア法人ネットワークの受益者であったことを明らかにしている。

主な調査結果

・ウクライナの大統領ヴォロディミル・ゼレンスキーと彼のコメディ制作のパートナー達は、イギリス領ヴァージン諸島、キプロス、ベリーズに拠点を置く彼らのビジネスに関連するオフショア(訳者註:off(離れる)とshore(沖)で海外(国外)のこと、特に金融用語では、租税回避が可能な国または地域のことを指す)法人のネットワークを所有していた。

・ゼレンスキーの現在の首席補佐官セルヒイ・シェフィールと、同国の保安庁長官(訳者註:イヴァン・バカノフの事、ゼレンスキーの幼なじみ)もまたオフショアネットワークの一員であった。

・オフショア法人はシェフィールとその他のビジネスパートナーにロンドンの高額不動産を購入するため使用されていた。

・2019年の選挙の頃、ゼレンスキーは彼の主要なオフショア法人の株式をシェフィールに譲渡したが、二人はゼレンスキーの家族が引き続きオフショアからお金を受け取れるように取り決めていたようだ。

 

2019年に俳優ヴォロディミル・ゼレンスキーは、秘密の法人を使い資産を海外に隠していた以前の指導者たちを含む、国の政治家階級に対する国民の怒りの波に乗ってウクライナの大統領に就任した。

しかし今、流出文書によってゼレンスキーとその陣営も独自のオフショア法人ネットワークを持っていたことが証明された。大統領のパートナー達に属する2つの会社はロンドンの高級不動産を購入するために使われていた。

この暴かれた事実は14のオフショア・サービス・プロバイダー(訳者註:イギリス領ヴァージン諸島、キプロス、ベリーズなど税制優遇が受けられる海外の地での資産運用を提供する業者)から数百万件に及ぶファイルが国際調査報道ジャーナリスト連合(訳者註:International Consortium of Investigative Journalists – ICIJ)に漏らされた、OCCRPを含む世界中の仲間達と共有されているパンドラ文書の資料によるものである。

資料よると、ゼレンスキーとテレビ番組制作会社「Kvartal 95」(訳者註:読み「クヴァルタル 95」、第九五街区の意味)の彼のパートナー達はオフショア法人のネットワークを構築したのは少なくとも2012年に遡る。その年、同社は数十億ドルの詐取疑惑が付きまとうオリガルヒ(訳者註:ロシアやウクライナの新興財閥)のイーホル・コロモイスキーが所有するテレビ局(訳者註:ウクライナ全国向けテレビ放送局「1+1」のこと)向けに定期的なコンテンツの制作を始めている。

そのオフショアはゼレンスキーの仲間達によって、ロンドン中心部に3つの一等地の物件を購入、所有するためにも使われていた。

資料にはまた、彼は当選直前に彼の主要なオフショア法人である英領ヴァージン諸島籍のMaltex Multicapital社(訳者註:読み「マルテックス・マルチキャピタル」)の持株をビジネスパートナー(間もなく彼の大統領補佐官となる)に譲渡したこと、そして株式を手放したにもかかわらず、そのオフショア法人は現在彼の妻が所有する会社に配当金を支払い続けることが可能な取り決めがすぐになされていたことを示している。

2000年代から有名だったコメディアン兼俳優のゼレンスキーが政治的な台頭を始めたのは2015年にオリガルヒのネットワークで放送が始まった政治風刺ドラマ『国民の僕しもべ 』で主役を演じた数年後だ。その番組でゼレンスキーは、生徒に撮影された授業中の熱狂的な反汚職演説が、ネットでバズり、国政選挙で勝ち進んでいく、ある控えめな歴史教師を演じた。

「人生は芸術を模倣する」(訳者註:「人生は芸術を模倣することのほうが、芸術が人生を模倣することよりも多い」オスカー・ワイルドの著作に由来するフレーズ)、ゼレンスキーは番組開始からわずか3年半という短期間で73パーセント以上の票を獲得し、実際のウクライナ大統領選に勝利してしまう。

ゼレンスキーは国民に広がる汚職に対する怒りを利用した、しかし2019年の選挙運動はコロモイスキー(自身の銀行から55億米ドルを盗み、それをパートナーのヘンナジー・ボホリュボフと協力してオフショアに送金したことで訴えられている)所有のメディアに後援されていた、彼の汚職反対の信念には疑念がつきまとう。

選挙運動の最中、現職大統領ペトロ・ポロシェンコ(訳者註:ウクライナ第5代大統領、在任期間:2014年6月7日 ~ 2019年5月20日、「パナマ文書」の方に名前が挙がっている)のある政治的盟友は、ゼレンスキーと彼のテレビ番組制作のパートナー達がコロモイスキーのPrivatbank(訳者註:読み「プリヴァトバンク」、ウクライナ最大の銀行、2016年に国有化されたが、元はプリヴァトグループ〔イーホル・コロモイスキー、ヘンナジー・ボホリュボフ、オレクシー・マルトィノフらオリガルヒによる多国籍ビジネスグループ〕が所有していた)から4,100万ドルを受け取ったとされているオフショア企業網の受益者であることを示すチャートをFacebookに公開した。

その盟友ヴォロディミル・アリエフは証拠を提供しなかった、また彼の告発はこれまで一度も証明されたことはなかった。しかしパンドラ文書はこの疑惑のスキーム(訳者註:資金の調達や運用についての計画や仕組み)の少なくとも一部詳細が事実と一致していたことを証明している。リークされた資料にはアリエフのチャートに詳述されていた構造と一致するネットワーク内の10社の情報が示されている。

この新しい資料には、そのネットワークの一部がパンドラ文書のリークを構成する14社のうちの1社であるオフショア・コンサルタント会社のFidelity Corporate Services(訳者註:読み「フィデリティ・コーポレート・サービス」)の支援を受けて管理されていたことを示している。資料はゼレンスキーと彼のパートナー達が、英領ヴァージン諸島(BVI)、ベリーズ、キプロスを拠点にした会社を利用していたことを示している。

オフショア・ネットワークに関わるゼレンスキーの仲間達のうち2人は、彼のテレビ番組制作会社にも所属しており、現在は権力のある地位に就いている。セルヒイ・シェフィールはゼレンスキー大統領の最高補佐官、イワン・バカノフはウクライナ保安庁長官である。

これらの権力のある地位にはリスクも伴う。9月22日、シェフィールはキエフ郊外で車が銃撃される明らかな暗殺企てを間一髪で逃れた。彼は無事だったが運転手は負傷した。

ゼレンスキーは繰り返しオリガルヒを抑制する公約をしてきた。シェフィール襲撃の翌日、国会はオリガルヒ登録名簿を作成し、彼らが政党へ資金提供したり民営化に関与することを禁じる法案を可決した。ゼレンスキーは、シェフィールへの暗殺の企てには厳しい応酬をもって応じる、そして既得権益への闘いに影響は与えないと述べた。

ゼレンスキーの報道官はコメントを控え、シェフィールとバカノフは質問に答えなかった。

セルヒイ・シェフィールの弟で、Maltex Multicapital社の共同所有者でもあるボリス・シェフィールは、「彼は確かにオーナーなのかもしれない、しかしオフショアの手配について詳しくは知らなかった、それは主に現ウクライナ国家保安庁長官であるバカノフ(訳者註:在任期間:2019年8月29日~ 2022年7月19日)によるものだ」

「バカノフは私達の財務責任者であり、彼が会社の財務計画立てていた。正直なところ、私はあなたに返事をする準備ができていない」

「このようなオフショアへの手配は“当局や無法者”による会社への脅威のために必要だった。」

「Kvartal 95のメンバー達はオフショアから手を引く動きをしていたが、それは遅く、また困難なプロセスだった」など述べている。

 

ホームズ氏の新しい隣人たち

オフショアネットワークの大部分が何のために使われていたのかは不明だが、その謎の一部を解く手がかりはロンドンのベーカー街、もう一人の有名な架空人物:シャーロック・ホームズの住宅近くで見つけることができる。

パンドラ文書の資料には、あるネットワーク法人がロンドンのアーサー・コナン・ドイル卿の伝説的な探偵の住所、ベーカー街221bに立つ博物館(訳者註:シャーロック・ホームズ博物館)から徒歩わずかのアパートを購入するために使われていたことを示している。この地域は匿名のペーパーカンパニー(訳者註:ダミー会社とも)を利用する外国人投資家に人気の高いロンドンの高級地のひとつである。

そのアパートは、グレンワース・ストリートにある3ベッドルームのフラットで、2016年にシェフィールが所有するベリーズ(訳者註:Beliz、オフショア法人設立で人気の中央アメリカ北東部の英連邦王国に属する国)の法人SHSN Limitedによって158万ポンド(228万米ドル)で購入された。

ベイカーストリートの近くにあるチャルフォント・コート・ビルの2ベッドルームのフラットも、2014年にシェフィールに220万ポンド(350万米ドル)で購入され、2018年にSHSN Limitedへ譲渡された。

また資料にはKvartal 95のべつの株主であるアンドリー・ヤコヴレフが、彼のBVIの法人がもう一つの資産を保有するBVI法人を購入した後の2015年に、国会議事堂から歩いてすぐのウエストミンスター・パレス・ガーデンズのアパートを約150万ポンド(230万米ドル)で取得したことも記されている。

ヤコヴレフは記者の問い合わせに「お嬢さん、私は知らない人とは話さない。私たちの弁護士に連絡をとってくれ」と言った。

ゼレンスキーとそのパートナーのために働いてきたウクライナの弁護士で、パンドラ文書のいくつかの資料に名前が現れるイウリイ・アザロフもまたコメントを拒否した。

 

中間選挙工作

ゼレンスキー自身がロンドンの不動産取引に関与していた形跡はない。しかし、資料には彼がオフショアネットワークの他の部分で重要な役割を果たしていたことを示している。

海外企業網の中心にあるのはMaltex Multicapital社だが、これまでゼレンスキーと関連付けられたことはなかった。

Maltexは2017年まで、ゼレンスキー、ヤコヴレフ、セルヒイ・シェフィール&ボリス・シェフィール兄弟が所有するペーパーカンパニーの間で均等に分割されていた。もう一人のKvartal 95のパートナーで、現在ウクライナの保安庁長官を務めるイヴァン・バカノフは、他の4人が所有するMaltexの受取名義人および受託者として機能する別の会社の受益者だった。

ゼレンスキーは妻とともに、Film Heritage(訳者註:読み「フィルム・ヘリテージ」)というベリーズ籍の会社を通じてMaltexの4分の1を所有していたが、2019年、ゼレンスキーの選挙キャンペーンが最高潮に達していた最中にFilm HeritageはMaltexの所有権を、まもなく大統領首席補佐官になるセルヒイ・シェフィールが所有する別会社に譲渡していた。譲渡書類はイウリイ・アザロフによって作成された。

この取引は、ゼレンスキーがオフショアネットワークから一定の距離を保つことをもたらし、しかも彼に何の費用もかからない。

OCCRPのために資料を検証してくれた金融犯罪コンサルタントのマーティン・ウッズは「株券は、受領当事者が金銭を支払っていない証拠となる。したがって、所有権は単にある名義から別の名義に移されたにすぎない」と述べる。

約6週間後、同弁護士アザロフはMaltexがゼレンスキーのFilm Heritageに(その会社の株式をもはや一切保有していなかったにもかかわらず)配当を支払い続けることを定めた別の書類に署名した。この書類はFidelity社(訳者註:既出のオフショア・コンサルタント会社)向けに作成されたMaltexの顧客情報であり、同社の5大収益源がウクライナ、ベラルーシ、ロシア、ベリーズ、キプロスであることを明らかにした。

パンドラ文書の資料類には、配当金の支払い額や支払回数に関する詳細は含まれてない。官公庁の資産申告オンライン登録簿によれば、2019年以降、ゼレンスキーの妻オレナ・ゼレンスカがFilm Heritage唯一の受益権所有者であり、その後のすべての支払いは彼女に流れていたことを意味する。

金融犯罪コンサルタントのウッズ氏曰く、この株式譲渡は、Maltexへの出資を隠しながら同時にまだそこから利益を得ることができる“偽装”目的の可能性があるとのこと。ゼレンスキーは彼がまだ会社の25%を所有していた2018年の記録を含め、公的な資産申告の中でMaltexについて一切に言及していない。

このような取り決めは「実際の所有者が別の人物を置き、彼もしくは彼女に代理人を務めさせ株主を偽装している」、「譲渡人はその株式と利益は維持したいが、他者にその事情は知られたくないのだ」とウッズ氏は述べている。

パンドラ文書のリポーターが送った質問に、FidelityはMaltex Multicapital社の登録エージェントであることを認めた、しかしゼレンスキーは現在、その管理下のいかなる会社の所有者や受益者でもないと答えた。

「現ウクライナ大統領は当社の顧客ではなく、そして彼はまた当社管理下の、いかなる団体の、いかなる所有権や、いかなる地位も有していない」とFidelityは述べた。

同社はまた、「もし適切であると判断されるなら、私たちにはそのような民間人がBVI(英領ヴァージン諸島)の事業会社を通すことを含めた国際事業展開を妨げる正当な理由は見当たらない」と、政界で栄達する2019年前のゼレンスキーのために働いたことは何の問題もなかったと主張したが、ゼレンスキーの他のパートナのこと、および彼のMaltex Multicapital社持株をシェフィールのパートナーへ譲渡したことについての追及質問には回答しなかった。

 

広範にわたる網

パンドラ文書の資料には、2019年の選挙期間中にゼレンスキーと彼のパートナー達に対して向けられていた広範にわたるオフショア工作疑惑とぴたり一致する詳細内容も含まれている。

選挙期間中に親ポロシェンコ派のアリエフ議員は、ゼレンスキーと彼のパートナー達はオリガルヒのコロモイスキーが略奪したと疑われているウクライナの金融機関・Privatbank由来の支払金4,100万米ドルを受け取ったオフショアネットワークの法人の受益者だと主張した。

アリエフの告発内容は、彼がFacebookに公開したBVI、キプロス、ベリーズなどのオフショア・ヘイブン(筆者註:海外租税避難地、タックス・ヘイブンとも)を拠点とする複数企業層間での複雑な取引網が示されているチャートに詳述されている。そのチャートには、銀行から一連の表面上のダミー会社を経由して、ゼレンスキーとその関係者が所有していると疑われている会社への資金の流れを示していた。

アリエフは自身の主張を裏付ける文書は提出していない。

しかし、パンドラ文書の資料は初めて彼の主張を裏付ける要素を与えている。それは資金を受け取ったとされている10社が実際にゼレンスキーとそのパートナー達に属していたということだ。このような情報はこれまで公にさたことはなかった。

だが、この新資料は、オフショア法人がコロモイスキーのPrivatbankから資金を受け取ったというアリエフの主張を裏付けるものではない。それらは資金がゼレンスキーと彼のパートナー達のオフショアネットワークを通じてどのように動いたのか、断片的な情報しか提供していない。資料から見える資金の流れは、依頼主がコロモイスキーだったテレビ番組制作事業に関連があると思われる。

流出文書によると、オフショアネットワークは2012年にKvartal 95の背後にいる個人によって設立された、Kvartal 95がコロモイスキーの1+1グループと制作契約を結んだことを地元メディアが報じた同じ年である。

パンドラ文書によると、SVT Films Ltdという法人は、2013年5月時点でBVIの持株会社Maltexが半分所有しており、テレビ番組『Make a Comedian Laugh』のライセンス料として、2013年1月までにコロモイスキーの1+1ネットワークに関連するオフショア法人から120万米ドルが支払われたことになっていた。

2015年には、ゼレンスキーの友人アンドリー・ヤコヴレフが最終的に所有していたGimentiano Holdings Ltd(訳者註:読み「ジメンティアノ・ホールディングス・リミテッド」)という法人も、コロモイスキーのPrivatbankキプロス支店の口座に75万ドルを受け取っている。この資金は“中間配当の支払い”のためにSVT Films Ltdから入金された。

OCCRPは以前、キプロス支店はコロモイスキーとそのパートナー達が銀行から数十億ドルを窃盗した疑惑の件で重要な役割を果たしたと報告している。コロモイスキーのパートナーであるボホリュボフ(訳者註:プリヴァトグループの共同管理者)は、記者団が両名宛てに送った質問への回答を拒否した。

ゼレンスキーが反オリガルヒキャンペーンを推進しているにもかかわらず、彼の誠実性に疑念を抱き続ける者がいる。

その中の一人、ルスラン・リャボシャプカは2019年にゼレンスキーによって国の最高検察官に抜擢されたが、2020年初めにはその役職から追放された。彼は、これはオリガルヒのコロモイスキーからの圧力によるものだと信じているとOCCRPに告げた。

リャボシャプカは「大統領がオフショア法人を所有するべきではない。一般的にそれらが大統領が所有されているかどうかに関わらずオフショア法人とは悪いものです」と言う。

彼は、資金を海外に移すことをウクライナの「昔からの伝統」だと呼んでいた。なぜなら、この国は「法の支配がない」危険な場所だと認識されているからだ。それでも、今日ではそのような法人の利用は「脱税または汚れた資金の合法化」の疑念を抱かせる、「それがオフショア法人の本質です」と語った。

オーブリー・ベルフォード(OCCRP)、マルゴ・ギブス(ICIJ)、ルーク・ハーディング(The Guardian)、サイモン・グッドリー(The Guardian)による寄稿記事

2021年10月3日

 

補足解説

 OCCRP報告書の内容は以上ですが、まずは「コロモイスキー(自身の銀行から55億米ドルを盗み、それをパートナーのヘンナジー・ボホリュボフと協力してオフショアに送金したことで訴えられている)」と記されている箇所について、解説しておきます。

 PrivatBankは顧客数1,900万人以上(国民のほぼ半分)を抱えるウクライナ最大の商業銀行です。2016年12月に国有化されましたが、元々はコロモイスキーとボホリュボフによって1992年に設立されました。

 両氏によって管理されていた同行は、2016年に不正融資やマネーロンダリングの疑いで国内銀行の監督権を持つウクライナ国立銀行(NBU)の法廷監査を受けることになります。

 監査依頼を受けたKroll(読み:クロール、世界最大の企業調査会社)は、2016年12月までの10年間にわたるPrivatBankの業務に関連するデータを収集・分析の結果、同行内で「大規模かつ組織的な詐欺」が行われており、その損失額が55億ドル(約6300億円)に及ぶことを報告しています。

ココちゃん
ココちゃん

2016年12月頃のレート、$1=¥115で換算

 以下、Krollの監査報告書からその「大規模かつ組織的な詐欺」がどの様なものだったのか箇所書きで要点を紹介します。

【Kroll社によるPrivatbankの監査報告書 箇条書き】

・法人向け融資の95%以上が株主(コロモイスキーとボホリュボフ)およびその関連会社に行われていた。

・ローンリサイクリング(関連会社内での融資・返済を繰り返させ、貸付が返済されているように見せかける、実際には資金が銀行内で循環ているだけ)していた。

・複数の口座間で大規模かつ組織的なマネーロンダリングが行なわれていた。

・PrivatBank内構造にこの乱脈経営を可能にする「銀行内の銀行」が存在していた。

*結論:PrivatBankは少なくとも10年間にわたって大規模かつ組織的な詐欺の対象となり、その結果、銀行は少なくとも55億ドルの損失を被った。

『Fraud identified in PJSC CB “PRIVATBANK” for the period before nationalisation(和訳タイトル:国有化以前の期間におけるPJSC CB「PrivatBank」の詐欺が確認された) / 2018-01-16 』より

 損失額(55億米ドル)は当時のウクライナのGDP(933.6億米ドル)の6%近くに相当、間違いなくウクライナ史上最大級の横領事件でしょう。

 この事態を知ったウクライナ政府は、預金者の保護と国内金融システムの崩壊を防ぐために、損失を公的資金で補填し、PrivatBankを完全国有化することを決定、元株主たち(コロモイスキーとボホリュボフ)は国有化された同行から告訴、損害賠償請求されており、彼らの資産一部は凍結されました。

 が、ウクライナ国民からすれば信用して預けていたカネは、オリガルヒ達が私腹を肥やすために食い物にされた挙句、放漫経営により生じたウクライナ経済崩壊の危機を招くほどの損失は血税によって賄われたという散々な状況でした。

 

大統領選を制したゼレンスキー

 OCCRP報告書(とゼレンスキー)に話を戻します。
 2019年大統領選の選挙期間中に親ポロシエンコ派のアリエフ議員がゼレンスキーと彼のパートナー達は「オリガルヒのコロモイスキーが略奪したと疑われているウクライナの金融機関・Privatbank由来の支払金4,100万米ドルを受け取ったオフショアネットワークの法人の受益者だ」と主張しました。
 この事が、どれ程重大な問題かは上記の補足でお判りいただけたと思います。しかし、裏付け文書がなかったということもあり親ポロシエンコ派は追及しきれなかったようです。

 それどころかゼレンスキーはこの攻撃を逆手に取って、決戦投票前討論会でポロシエンコから「ウクライナを略奪した君のパートナー(コロモイスキーのこと)がPrivatbankの口座から君の個人の秘密のオフショア口座に4,100万米ドルを支払ったのはいつのこと?」となじられたとき、聴衆に「ウクライナの皆に言いたいんだ、これはウクライナで起きたことだよ、全部のチャンネルはオリガルヒのものなんだ」と、これは暗にエンターテインメント業界で生きる自分はオリガルヒのやり方に従わざるを得なかったとの上手い言い訳にも聞こえますが、当時ウクライナ国民だれもがあのドラマ『国民の僕』でゼレンスキーが演じた正直で庶民的な人物のイメージにそぐわないこの疑惑の方を訝しんでいたのないでしょうか。

 そのあと「あなたは僕がコロモイスキーのパートナーだと言ったけど、その(全てのメディアを支配している)オリガルヒは、コロモイスキー、ピンチューク、フィルタシュ、アフメトフ・・・・・そして尊敬する大統領、あなたです」と上手くオリガルヒ問題にすり替えて返答、これにはポロシエンコも苦笑いするしかありませんでした。

 同年5月20日、ゼレンスキーは「資産を海外に隠していた以前の指導者たちを含む、国の政治家階級に対する国民の怒りの波に乗って」、73.22%の得票率で現職大統領のポロシェンコを破り、ウクライナ大統領に就任しました。

 

まとめ

 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が「パンドラ文書」を公開したのは2021年10月3日、大統領就任から約二年後、当時見えてこなかった事実が浮かび上がってきました、OCCRP報告書の内容を下記にまとめます。

・ゼレンスキーと彼のビジネスパートナー達は、法人のMaltexを中心にイギリス領ヴァージン諸島、キプロス、ベリーズに彼らのビジネスに関連するオフショアネットワークを築いていました。

・彼らがオフショア法人を持ち始めたのは2012年頃、彼らのコンテンツ制作会社Kvartal 95がコロモイスキーの1+1グループと制作契約を結んだのと同じ年でした。

・ゼレンスキー達がコロモイスキーとオフショアで繋がっていたことは、1+1関連のオフショア法人からMaltexへテレビ番組制作事業に関連があると思われる支払が行われていたことで明らかとなりました。

・オフショア法人はロンドンの一等地の物件を購入するためにも使われていました。ただOCCRP報告書には「ゼレンスキー自身がロンドンの不動産取引に関与していた形跡はない」とされています。

モモちゃん
モモちゃん

英国のロンドンなどの高級不動産は、世界の富裕層、特に政治が不安定で、自国通貨が国の富裕層にとって、政治的リスクへのヘッジとして機能し、資産を保全するために大変魅力的な「安全資産」としての役割を果たしています。


・ゼレンスキーは当初、Maltexの株を妻のオレナ・ゼレンスカとともにベリーズ籍のFilm Heritageを通じて4分の1を所有していましたが、2019年の大統領選挙最中(当選直前)に、Maltex株を仲間に譲渡し、自身はFilm Heritageの所有から外れることで、身辺からオフショアとの関係を消しています。

・仲間と取り決めによりゼレンスキーがMaltexの株を手放した後も、Maltexからゼレンスキーの妻が所有し続けているFilm Heritageに配当金が支払われていました。


・これについて、金融犯罪コンサルタントは「この株式譲渡は、所有権が単にある名義から別の名義に移されたにすぎない。Maltexへの出資を隠しながら同時にまだそこから利益を得ることができる“偽装”目的の可能性がある」と指摘しています。

 ウクライナ当局者の汚職や虐待、人権侵害、国際犯罪などを暴露してきたウクライナの独立したジャーナリストチーム「Slidstvo.Info」は、彼らが制作したドキュメンタリー番組『OFFSHORE 95』で「彼は正直で控えめな庶民の大統領という映画のイメージに基づいて政権を握ったと考えられていたが、これらの発見により、私たちはウクライナの大統領を今までとは違った見方で見ざるを得なくなった」と語っています。
 この言葉は、2019年大統領選で「脱税や汚れた資金」とは無縁の大統領の誕生を希望していたウクライナ人達の気持ちを代表しているのではないかと思います。

 如何だったでしょうか?
 このOCCRP調査報告書から、私たちも普段メディア報道では知ることが出来ないゼレンスキーの姿、そしてウクライナの深刻な事情も見えてきたと思います。
 私はこの報告書のなかで紹介されていたリャボシャプカ議員の「彼は資金を海外に移すことをウクライナの「昔からの伝統」だと呼んでいた。なぜなら、この国は「法の支配がない」危険な場所だと認識されているからだ」と、自国の醜聞を恥じながらも「昔からの伝統」だと語る言葉が心に残ります。
 イギリスの思想家サミュエル・スマイルズの著書『自助論』にある一語「一国の政治というものは、国民を映し出す鏡にすぎません」が脳裏に浮かぶからです。

モモ&ココ
モモ&ココ

ありがとうございました。
これからも関連記事の投稿を続けていきます。

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